防衛機制とは

人間の脳は、環境を生き抜くために自分を守ろうとする働きが強いということをアダルトチルドレンと心の歪みの中で書きました。
今回の記事では、自分を守ろうとする心の働きについてさらに詳しく説明したいと思います。

人間の脳は、ストレスが掛かると自分を守ろうという働きが生じるようになっていますが、受け入れがたい状況や命の危機を感じるような出来事に直面すると不安を解消しようという防衛機制という働きを起こすことがあります。

防衛機制は、私たちも生活の中で無意識に使っています。
特にストレスを受けて心に余裕がない状態になり、ストレスから逃れることを優先しようとした時には、何らかの防衛機制が働きます。

防衛機制は、人によってどれが生じやすいか違いがあるので、自分に生じやすい防衛機制が何か、それが生じた時の自分はどんな言動を取ってしまうのかなどを知っておくことは、日常生活を送る上で有益だと思います。

防衛機制の種類

下記に防衛機制の種類を取り上げているので、自分はどれをよく使っているか確認してみて下さい。

抑圧

本音や嫌な出来事を心の奥(無意識)に押し込めてしまうこと。
人は、心の安定を保つため嫌な出来事を忘れたり、他人との関係を崩さない為に本音を押さえたりすることがあります。
しかし、無意識に押し込めたものがうまく発散されず満杯になってしまうと、さまざまな症状として抑え込んだものが別の形となって現れてくるのです。
ちなみに、意識的に現実の必要性に合わせて本音や嫌な出来事を抑え込むことは、抑制といい、意識しておこなっている分、抑え込んだ感情を別の形で発散することが可能です。

投影

自分が負の感情を抱え、その感情を受け入れることができない場合、その感情を持っているのは他人だと思ってしまう心の働き。
自分が目の前の相手のことを嫌いだと思ってるが、自分は人のことを嫌うような人ではないと思っていると、相手が自分を嫌っていると感じることがある。
人に嫌われることが怖いと言っている人が、意外と周囲の人のことを嫌っているのは投影が働いている状態だと言えます。

転移

ある人物への重要な感情を別の人に向けること。
例えば、家庭で父親への反抗心を、父親と同じような年頃の教師に向けてしまうことをいいます。
学校で先生に反抗的な態度をとってしまう子は、家庭内で生じた感情を学校で発散していることもあるのです。
また、両親の愛情不足が原因で、子供がいつも不幸な恋愛をしてしまうようになってしまうこともあります。
親によって満たされるべき愛情を、恋愛の相手に過剰に求めて相手がそれを受け止められなくなり、関係が壊れてしまう恋愛を繰り返してしまいます。

転換

心の葛藤や不安を、身体症状で表すこと。
ピアノの発表会で以前の失敗が思い出され、また失敗するのではないかという不安と緊張が、ピアノを弾こうとすると手が震えるという身体症状となって現れることも転換の一つです。
転換は主に震え、麻痺、感覚、感覚喪失となって表れることが多い。
立っていることや歩くことができないほどの脱力感に襲われる、声が出なくなったり視野が狭くなることもあります。

心気化

心の中にストレスが蓄積して、それを自覚することができていない場合、何か重い病気になってしまったと思い込んでしまうことを心気化と言います。
心気化の場合は、病院で検査をしても疾患は特定されないので、心の病として心気症という診断が下りる可能性があります。

合理化

もっともらしい理由で、自分の欲求を正当化すること。
仕事でミスをした時に、周りの人間やパソコンや機械の責任にすることです。
あまり理不尽な合理化ばかりしていると、信用をなくし人間関係が壊れたり、反省することをせず同じ過ちを繰り返してしまいます。
自分にとって受け入れたくない事も、合理化し誤魔化したりせず、辛くても真正面から受け止めことも必要でしょう。

反動形成

ある感情を認めたくない為に、全く逆の行動をとってしまうこと。
小学生の時など、男の子が好きな女の子にいたずらをしてしまうのも反動形成です。
また、不安で弱気になっているのに強がって見せたり、悲しいのに笑って見せたりなど、自分の認めたくない所を、その反対の態度で隠す行為を反動形成といいます。
強がることも人生では必要かも知れませんが、自分の気持ちを素直に認め、素直に表現した方が周りの人は素直に助け船を出したりできるのではないでしょうか。

退行

行動や言動が子供時代に戻ること
心のバランスを保つ為、仕事や人間関係のストレスを解消する為には、子供心に戻って思い切り遊んだり、人に甘えることも大切です。
多少の退行は、大人の中にある子供心を活性化させ、心のエネルギーを回復させます。
しかし、度が過ぎた退行は、周囲の人間がそれにつきあう事が困難なですので、気をつけましょう。

行動化

心の中の葛藤を抑圧しすぎることで問題行動によって葛藤を解消しようとしてしまう状態。
性的逸脱行動、万引き、アルコールや薬物、買い物などへの依存、暴飲暴食、自殺未遂などが行動化の一例です。


上記に取り上げた防衛機制は、望ましくない言動につながる未熟なものでしたが、下記では成熟した防衛機制を紹介しています。
ストレスを受けない生活はできないので、下記のような防衛機制を意図的に見につけることが大切です。

受容

受容とは、自分が直面している現状を受け入れる防衛機制です。
受け入れることによって現状を正しく把握することが大切です、受容は他の防衛機制と組み合わせることによって葛藤の解消につながると言えます。

同一視

憧れている人、尊敬してる人などを意識して、自分もあんな風になれるという感覚を持つこと。
それによって理想に近づく努力をして、成長することによって葛藤に対する抵抗力を身につける防衛機制。

昇華

現実に適応する形で、欲求を満たすこと
心の中にある衝動や葛藤を、スポーツや芸術活動を行い、社会的に認められる形で発散することを昇華と言います。
不良と言われケンカなどを繰り返していた人が、ボクシングをすることで欲求を満たしたり、社会への不満や疑問を小説を書くことで表現し満足感を得るなど、という行為は社会的にも認められていて、場合によっては大きな成果を生む場合もあります。

防衛機制のコントロール

上記でも説明した通り、防衛機制が強すぎると社会に上手く適応できなくなってしまう可能性があります。
例えば、不登校、出社拒否、帰宅拒否、暴力、暴言、虚言、依存行為なども防衛規制が悪化した状態です。
そんな状態にならないように防衛機制をコントロールすることが必要なのですが、主な方法を2つ説明します。

ストレスコントロール

1つは、ストレスをコントロールして蓄積させないことです。
ストレスを解消するための気分転換や休養を取る習慣を持っている人は、ストレスケアができているため、過度にストレスを溜め込みません。
自分なりのストレス解消の習慣を持つことが大切です。

学習

もう1つは、学習です。
学習というのは、自分の経験から同じような失敗をしないようにすること、他人の行動を見て望ましい行動を学ぶこと、本などから知識を得て行動に活かすことです。
防衛機制を使わずに生活することはできないので、どのようにしてストレスを正面から受け止めないようにするのか、ストレスに強い心を作るのかということを学習して実行していくことが大切です。

カウンセリングに来られている人もさまざまで、防衛機制がコントロールできていないために悩みが大きくなっている人から、比較的上手く防衛機制をコントロールできていると感じる方もおられます。
そんな方は、知的好奇心も強く、いろんなこと、いろんな人から何かを学ぼうという姿勢を持っておられるように感じます。

防衛機制は、その人の心の在り方と強く関係しているので、上手くコントロールする術を身に着けることが望ましいでしょう。
ストレスコントロールや学習と上記で紹介した成熟した防衛機制を組み合わせることによって心の健康維持、行動の健全化を行って頂ければと思います。